『infection』は鬼束ちひろの真骨頂が発揮された名曲

今回は鬼束ちひろの『Infection』のレビューを行います。

デビュー曲のインパクトが強かったので鬼束ちひろさんの代表曲は
「月光」だと
思われている方は多いと思います。

個人的には、曲のクオリティだけを考慮すればの話ですが、
この『Infection』こそが
鬼束ちひろさんの代表曲だと考えています。

イントロから素晴らしいピアノで世界観を作り出し、全てのメロディーは美しく、
そして鬼束さんの歌声が完全に調和され、一級の作品に仕上がっています。

9.11のアメリカ同時多発テロ事件の影響があり、
この曲の存在が広く知られることが
なかったのは不幸なことです。
歌詞の一部が事件を連想させるものがあったという理由で、
プロモーションが自粛
されたのですが、まったく理解できない現象でしたね。

この曲はアメリカ同時多発テロ事件よりも前に発売されているので、
事件のことを
表現しているわけではまったくありません。
被害者の方を揶揄するような内容でも
ありませんので自粛する理由はありません。

こういう理不尽な出来事によって、名曲が世に広まりづらくなったのは残念でたまりません。
このブログで取り上げることによって、一人でも多くの方に知って
いただきたいと心から願っております。

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鬼束ちひろ『Infection』

作詞・作曲: 鬼束ちひろ 編曲: 羽毛田丈史

ピアノのリフから始まるこの曲。ハープで味付けしてあり、ピアノを彩っています。
ストリングスが入るタイミングとその音色が絶妙で、一気に曲の世界観に引き込まれます。

深めのリバーブがかかった鈴の音色もアクセントになっていて素晴らしいです。
無駄な音が一つもなく、それぞれの楽器が見事に役割を果たしています。

極めて芸術性が高く、『至高のイントロ』と言っていいでしょう。

(0:22)
ボーカルとピアノだけの編成ですが、十分ですね。これだけで立派な優れたAメロになっています。
歌のメロディーは非常に美しく、ボーカルの歌声と完全に合っています。

Aメロを繰り返す際に、ピアノがアルペジオで下から上っていくフレーズになっていますが、
途中からハープに切り替わっていますね。
(0:41)
細かいですが、こういうアレンジが曲の魅力を引き出すのです。

(1:03)
ここから5小節と短いですがBメロが始まります。
メロディーは及第点。サビへの期待を持たせてくれているので十分でしょう。

ストリングスが再び絶妙なタイミングで入ってきています。
あまり高音のフレーズではなく、中音域を使っているのがポイントですね。
ここでは派手にする必要はありません。

(1:15)
サビのメロディーは非常に美しいです。
最初のサビなので声を張り上げて歌うのではなく、丁寧に切なく歌っていますね。

アレンジも同様に派手に盛り上げず、落ち着いた雰囲気にしてあります。
ベースは基本は強拍のみで、要所で音を少し足しています。

サビの最後ではハープのグリッサンドの音を入れて、色彩感を与えています。
サビ後はイントロと同様のフレーズに進みます。
これはよくある構成です。いくつかパーカッションが足されていますね。

(2:06)
2回目のAメロでは1回目とはアレンジに変化をつけるのが一般的です。
この曲では新しい楽器を加えずに、ピアノの音を増やすことで変化を与えています。
これは珍しい変化のつけ方だと思います。参考になります。

それだけでは不十分ですので、途中からストリングスを加えていますね。
いい判断です。フレーズも綺麗でいいですね。

2回目のBメロは、サビに向けて高揚感を高めるように作られています。
このBメロがあるからこそ、次のサビがよりいっそう輝くのです。

(2:59)
2回目のサビは1回目のサビとはフレーズが変わっていますね。珍しいタイプの曲です。

1回目のサビより高い音域を使ったメロディーになっています。

メロディーは極めて美しく、ボーカルも声を少し張り上げて歌っていますね。
それが非常に効果的で魅了されてしまいます。

アレンジはシンプルですが、歌声とメロディーがこれだけ素晴らしければ、
余計な音など入れないほうがいいです。よってこのアレンジは正しいと思います。

間奏に入る前にブレイクを入れて、歌声を際立たせています。
そして、自然に間奏へと展開されます。上手ですね。

(3:32)
短い間奏があり、その後Dメロに進んでいきます。

この曲の本領が発揮されるのはここからです。

間奏の最後のグリッサンドをきっかけにして、曲が盛り上げられていきます。
Dメロの出来もとてもいいです。
それまでの世界観を自然に受け継ぎ、
美しいメロディーで曲を見事に彩っています。
ストリングスも綺麗ですね。

最後のサビに進んでいく際に、気持ちが高ぶり、テンションが溜められていきます。
そしてその溜まったテンションが、最後のサビで爆発されるのです。

(4:06)
最後のサビは転調して、前のサビより長2度高くなっています。(Key in Dm → Em)

ボーカルの歌声の魅力が最も発揮される音域で、
最後のサビのメロディーは
作られています。素晴らしいとしか言えません。圧巻の歌唱力です。

アレンジも全体的に派手に盛り上げています。
盛り上げすぎるとボーカルの歌声が
埋もれることもありますが、
この曲にはそのような心配は必要ありません。
ストリングスは華やかさを与えていますし、ベースも低音でしっかりと曲を支えています。

強いて言うならこの状況だと鈴の音が弱いような気がします。
もっとしっかりとした音が鳴る打楽器に変えたほうがよかったかもしれません。

(4:43)
歌詞の「破片が」を繰り返すところは、
鬼束さんの
『理性ではコントロールできない、本能の歌声』という印象を受けました。

終盤では徐々にアレンジを緩めていき、ブレイクを入れて歌声を際立たせています。
物語の終焉を感じさせるアレンジになっていますね。非常に美しいです。

(5:09)
直前に鳴らされたウインドチャイムが綺麗に鳴り響く中、アウトロに入ります。

イントロと同じフレーズですが、転調しているので少し印象が違いますね。
何も問題ありませんね。綺麗に曲が終えています。

鬼束ちひろ『Infection』の総評

1本の名作映画を見た後のような余韻が残ります。

イントロから曲が終えるまで無駄な音が一切なく、洗練された名曲です。
鬼束ちひろさんの歌声、作詞・作曲能力と編曲家の羽毛田丈史さんの才能が見事に融合し、
『Infection』という最高の名曲が生まれました。

素晴らしい作品をありがとうございました。

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