今回はモーダルインターチェンジを使ったコード進行とスケールの使い方を解説します。
モーダルインターチェンジにはいくつかの意味がありますが、
今回は「同主短調からの借用和音」というテーマで語ります。
同主調というのは、同じ主音を持つ長調と短調の関係のことです。
Key in Cの曲にKey in Cmのダイアトニックコードが使えるということです。
モーダルインターチェンジを覚えれば、コード進行パターンも増えますし、
様々な曲調の音楽を作曲できるようになりますよ、
ぜひ、最後まで読んでみてください。
モーダルインターチェンジとは何か?
冒頭に述べたように、モーダルインターチェンジとは
「同主短調からの借用和音」のことをいいます。
Key in Cの曲にKey in Cmのダイアトニックコードを借用することができますので、
まずは、それらを確認しましょう。
短調には3つのスケールがあり、それぞれのスケールに基づいたダイアトニックコードがあります。
今回は、ナチュラル・マイナースケールに基づいたコードを解説します。
使用頻度も圧倒的に高いので、ここだけを押さえておけば十分です。
Cm7 - Dm7b5 - EbM7 - Fm7 - Gm7 - AbM7 - Bb7といったコードが、
Key in Cで使用することができるのです。
モーダルインターチェンジの中で、もっともよく使われるのは、
IVmでしょう。Key in CならばFmを使ったコード進行は比較的多いです。
IVmはサブドミナントマイナーコードとも呼ばれます。
サブドミナントマイナーコードは、以前に詳しく解説した記事があります。
IVmを使ったコード進行をいくつか紹介しています。
そちらも合わせて読んでいただけたらなと思います。
モーダルインターチェンジを使ったコード進行パターン
モーダルインターチェンジを使ったコード進行の作り方のコツを解説します。
前述のとおり、Key in Cmのダイアトニックコードを借用しますので、
短調のコード進行の学習が役に立ちます。
短調のコード進行を学ぶ時にKey in Am(イ短調)で学ばれた方が多いと思います。
理論書でもKey in Amで教えられていることが多いです。
しかし、短調のコード進行はKey in Cm(ハ短調)で学ぶことをおススメします。
なぜなら、長調も短調もコードの機能が変わらないからです。
つまり、
|
IIIのコードは少し特殊なのですが、基本はトニックで、
後続のコードがVIの場合はドミナントになります。
このような共通点があるので、Key in Cで学んだコード進行の知識を、
そのままKey in Cmに活かすことができるのです。
具体的には
「I→VIm7→IIm7→V7」は「Im→bVIM7→IIm7b5→V7」になります。
「C→Am7→Dm7→G7」を「Cm→AbM7→Dm7b5→G7」に置き換えることができるのです。
このように考えれば、短調のコード進行の理解が早く深まります。
そして、短調の学習をKey in Cmで行うことによって、
モーダルインターチェンジの理解も深めることができるのです。
まさに、一石二鳥ということです。
より短調のコード進行の学習を進めたい方は、以下の記事を読んでみてください。
前置きが少し長くなりましたが、ここからは具体的なコード進行を紹介します。
楽譜と音を用意しましたので、必ず目と耳を使って学びましょう。
Key in Cによるコードネームとディグリーを合わせて紹介します。
括弧内のコード進行は、1小節に2つのコードを入れたことを表します。
①C→Bb→F→[Ab→G]
I→♭ⅤII→IV→[♭VI→Ⅴ]
②C→F→Eb→F
I→IV→♭III→ IV
③C→F→Ab→G→A→F→C on G→G
I→IV→bVI →Ⅴ→VI→IV→I on Ⅴ→Ⅴ
このコード進行は少し解説が必要です。
まず、I on ⅤですがこのコードはⅤsus4の代理コードです。
「Iはトニックだ」と教えられてきた方が多いと思いますが、第2転回形はドミナントになります。
その根拠としては、Ⅴsus4と構成が酷似していることです。
Gsus4の構成音は、ソ・ド・レで、C on Gはソ・ド・ミです。
最低音が属音になっていることも代理関係になる根拠になります。
C on G→G7というコード進行は、プロでもあまり使わない進行です。
何故かは分かりませんが、使い勝手は良いので試してみてください。
分かりづらいのはⅤ→VIの進行ですね。
これは解釈の仕方が色々あるので、解説が難しいです。
VImの代理コードとしてVIを使ったともいえますし、Ⅴ→VIは平行和音にもなっています。
どの説明が適切かは分かりませんが、このコード進行が使えることは間違いありません。
Ⅴ→VIに進行したときに、一瞬どの調にいるのか分からない不思議な感覚がします。
そこから、IV→I on Ⅴ→Ⅴの進み、「元の調に戻った」という印象を与えます。
もちろん転調させるのもいいですよ。
G→Aの後にKey in Aのダイアトニックコードを使って、コード進行を組み立てても面白いと思います。
④F→G→Ab→Bb→C
IV→Ⅴ→♭VI →♭ⅤII→I
曲の最後などに使われることが多いコード進行です。
Cで終わらせずに、新たなコード進行を作ることも可能です。
⑤CM7→F→BbM7→CM7
IM7→IV→♭ⅤII7→IM7
メジャーセブンスコードを使ったモーダルインターチェンジの進行です。
トライアドとは異なる印象がありますね。曲調に合わせて使いこなせるようにしましょう。
⑥F→Ab→Bb→C
IV→♭VI →♭ⅤII→I
モーダルインターチェンジのスケールの選び方
ポピュラー音楽に関しては、コードスケールの知識は転調がない限りあまり役に立ちません。
しかし、「転調しない曲はない」といっていいほど、近年のポップスでは頻繁に転調が行われています。
よって、スケールの知識は必須となります。
コードスケールの基礎知識がない方は以下の記事を読んでみてください。
モーダルインターチェンジも同主短調のコードを借用するわけですから、一時的に転調しています。
例えば、Key in Cで先ほど紹介したような、AbやBbが使われた場合、
何のスケールを使ってメロディーを作ればいいのでしょうか?
感覚に頼って作ることも可能ですが、しっかり学ぶと選択肢が増え、
それに伴い音楽性の幅が広がり、様々な曲が作れるようになります。
サブドミナントマイナーコードのスケールに関しては、今回の記事でも少し扱いますが、
詳しく解説した記事がありますので、そちらを参考にしてみてください。
まず、先ほどのコード進行では出てこなかったIIm7♭5から解説します。
IIm7♭5はIIm7の代理コードとして使えますので、試してみてください。
スケールもKey in Cで解説をします。
IIm7♭5はKey in CだとDm7b5のことです。Dm7b5のスケールは2種類あります。
一つはDロクリアン・スケール。もう一つはDロクリアン#2スケールです。
Dロクリアン#2はその名前の通り、ロクリアン・スケールの2番目の音を
半音高めたスケールです。ロクリアン・ナチュラルセカンドとも呼ばれます。
どちらのスケールを使えばいいのかは、コード進行によって異なります。
Dロクリアン・スケールとDロクリアン#2スケールは2番目の音しか違いがありません。
ミなのかミbなのかは、細かいようで重要なテーマです。
このスケールに限らないのですが、スケールを選ぶ時には
「元の調に近づける」という考え方が、初心者の方におススメできます。
Dm7b5をKey in Cの中で使用するのであれば、シャープやフラットが
出来るだけ少ないスケールを選ぶということです。
そう考えれば、Dロクリアン#2スケールを選ぶ方が良いということになります。
ただし、前後のコード進行によってはそれが正しいとは言えなくなります。
C→Fm→Dm7b5→G7の場合はどうでしょうか?
FmはKey in Cmのコードで、G7はKey in Cのコードと解釈できます。
その間に挟まれたDm7b5はKey in Cmのコードではありますが、
そこで使われるスケールの選び方には、迷いが生じます。
Fmに寄せるのであれば、ミbが含まれたDロクリアンを使いますし、
G7に寄せるのであれば、Dロクリアン#2スケールを使うのが無難です。
FmとG7に何のスケールが使われるかにもよるので、簡単に答えは出ません。
G7にGミクソリディアンb6が使われると事情が異なります。
Gミクソリディアンb6は「ソ・ラ・シ・ド・レ・ミb・ファ」というスケールです。
ミbが含まれているのです。そうなると、Dロクリアンを使うことを考えます。
FmにFメロディックマイナースケール(上行)が使われた場合も事情が変わります。
このスケールは、「ファ・ソ・ラb・シb・ド・レ・ミ」という構成になっているので、
ミの音にフラットが付きません。
コードスケールが、非常に奥が深い理論であるということが分かっていただけたと思います。
♭VI・♭ⅤII・♭IIIのスケールの選び方
♭VI・♭ⅤII・♭IIIは、いずれもリディアンスケールが候補として挙げられます。
もっともよく使われるスケールだと思います。
しかし、コード進行の全体像とそのコードで使われるスケールによって、
スケールの選び方が変わってきますので、注意が必要です。
♭IIIと♭VIはセブンスコードで使う場合は、いずれもメジャーセブンスコードになります。
その場合もリディアンスケールで特に問題ありません。
♭ⅤIIは♭ⅤII7になるので、ドミナントセブンスコードになります。
その場合はリディアンではなく、ミクソリディアンかリディアンb7が候補として挙げられます。
C→Ab→Bb→G7というコード進行で考えてみましょう。
CにはCアイオニアンを使います。後のコードのスケールはどうしましょう?
AbにはAbリディアンを入れてみましょう。
AbアイオニアンよりもKey in Cに近づけることができます。(レかレbの違いです)
ここからは少し悩ましいです。
G7にはGミクソリディアンを入れてみましょう。
その前のBbには、BbリディアンとBbアイオニアンの2つの選択肢があります。
(Bbミクソリディアンなども使えます)
どちらを使うかは難しいですね。
Abリディアンに寄せるなら、Bbアイオニアンを選びますし、
Gミクソリディアンに寄せるなら、Bbリディアンを選びます。
元の調に近づけるという考えならば、Bbリディアン→Gミクソリディアンがいいです。
ただし、この選択が「正しい」とはいえません。
Gミクソリディアンb6が使われたのであれば、Bbアイオニアンの方が良いと思います。
かなり、複雑で頭の中が混乱された方もいると思います。
最後に、モーダルインターチェンジを使ったコード進行に、
メロディーを乗せた曲を聴いていただきます。
コード進行は、C→F→Fm→G→[Ab→Bb]→Cです。
画像をクリックすると大きな楽譜で見やすくなります。
FmにはFドリアン(ファ・ソ・ラb・シb・ド・レ・ミb)を使っていますが、
1拍目の裏拍には「ミの音」があります。これは刺繍音(ししゅうおん)と呼ばれる音です。
ソ→ラ→ソとかソ→ファ→ソのように、元の音から2度上行または下行し、
再び元の音に戻るのを刺繍音と呼びます。
上行してから戻るのを上接刺繍音と呼び、下行してから戻るのを
下接刺繍音と呼びます。この2つには違いがあります。
下接刺繍音は半音高めることがあるのです。
ソ→ファ#→ソのようなメロディーになることがあります。
下接刺繍音はどのジャンルの音楽でも出てきますので、必ず覚えましょう。
Fドリアンにはミbが含まれていますが、下接刺繍音によって半音高められ、
ミbがミになっていると解釈することができます。
1小節内に、ミとミbの2つの音が存在するのに違和感を抱くかもしれませんが、
メロディーを聴いてみると、全く不自然さはありません。
AbにはAbリディアンが使われていて、BbにはBbリディアンが使われています。
ところで、Fm→G→Ab→Bbの進行をKey in Ebから見ると、
IIm→III→IV→Ⅴの進行になっていることに気づかれたでしょうか?
そのように解釈すると、C→F→Fm→G→Ab→Bb→Ebというコード進行を作ることができます。
Key in CからKey in Ebへと転調させることができます。
Key in CmとKey in Ebは、平行調の関係になっていることにも注目です。
最後にC→F→Fm→G→Ab→Bb→Ebのコード進行とメロディーを聴いてみましょう。
BbではBbミクソリディアンを使っています。ミbが使われているのが先ほどの曲との違いです。
ポピュラー音楽に関しては、コードスケールと転調は密接な関係にあります。
転調を使いこなすことで、スケールの使い方も上達するのです。
以下に転調に関する記事のリンクを用意しましたので、関心がある方は読んでみてください。
今回はモーダルインターチェンジの解説を詳しく行いました。
一回の解説で全てを理解することは難しいと思います。
繰り返し読んだり、経験を積んだ後にこの記事を再び読んでみてください。
新たな気づきが出てくると思います。
コードスケールには答えが存在しないのです。
黒か白かはっきりしない、「グレーの世界」です。
このグレーの世界を楽しめるようになることが大切です。
選択肢が多いことは、必ずしも良いこととはいえないかもしれません。
しかし、スケールを上手に使いこなせるようになると、
優れた曲が作れるようになることは間違いありません。
プロの音楽家ですら、上手に使いこなせている人は少ないです。
それならばこの記事を読んでいるあなたは、「学ばない」という選択を取らないはずです。
モーダルインターチェンジのコード進行とスケールをしっかり学び、
あなたが理想通りの曲が作れるようになることを、願っております。
この記事へのコメントはありません。