今回は米津玄師の『Lemon』のレビューを行います。
米津玄師の代表曲であるLemonは、非常に美しいメロディーがある一方で、
曲の構成やアレンジにいくつか課題を抱えています。その辺りを指摘していきます。
米津玄師『Lemon』
イントロがなくボーカルから始まりますが、ブレスの音を強調しています。
これがないままで曲が始まると少しさびしい感じがします。
細かいところですが、ちゃんと必要な音を入れています。
Aメロの途中に入ってくる、「合いの手の声」は無いほうがいいです。
悪い意味で耳に残る音ですので、気が散ってしまいます。
クラップの音が絶妙でバッチリこの曲に合っていますね。
Aメロを繰り返すときにブレイクが使われていますが、これは不要だと思います。
緊張と緩和は大切なのですが、この曲は緩和が多すぎる印象があります。
この点は後述します。
クラップの音色を変えていますが、変えない方がよかったですね。
最初のクラップの音のほうがこの曲に合っています。
同じAメロでクラップを変えるというのは、意外性はありますが
この曲に関しては上手くいっていません。
ハイハットの音色はいいですね。
ストリングスと打楽器は及第点です。
ピアノは音が重く、フレーズも淡白であまり美しくありません。
(0:49)
ここからBメロが始まります。
キックとハイハットを抜いて静かな雰囲気になっていいです。
スネアの連打がいい味を出していますね。
通常AからBに進行する際、アレンジに変化を与えるのは当然ですが
どのように変化を与えるのかは結構悩ましいのです。
この曲はその部分が非常に上手に作られています。
メロディーはAメロの流れを上手く引き継ぎ、サビへの橋渡しも上手です。
サビに入るときにブレイクが使われ、ボーカルが強調されていますが
これは当然正解です。
だからこそ、最初のAメロのブレイクが余計なのです。
ブレイクは1曲に何度も使われるものではありません。
※この後にもブレイクは出てきます。
2回目のサビ前ではスネアの連打を入れて変化を与えています。
これは上手なアレンジです。
(1:00)
ブレイクでボーカルを目立たせる形でサビに入ります。
非常によいと思います。
メロディーはいいですね。美しいだけでなく、いい感じに盛り上げられています。
高音のフレーズが欲しいタイミングでキチンと歌われていて非常に良いです。
メロディーのリズムに特徴があるのです。
1小節めと2小節目の歌のメロディーは同じで、3小節目の後半から盛り上げていく感じですね。
こういう同型のリズムのメロディーはキャッチ―になりやすいのです。
1回目のサビの後もブレイクっぽいものが入り、
2回目のサビの前でもブレイクが使われています。
この曲は1曲を通じて、緩めることがあまりに多すぎます。
曲が『止まる』ことが多く、流れていかないのです。
これは明らかなマイナスポイントです。
この後に解説するDメロも緩和されたアレンジになっています。
(2:43)
Dメロの出来は悪いです。
ここもアレンジが緩められていますが、全くの正反対のアレンジが良かったです。
つまり、サビの勢いを引き継ぐ形で、もっと盛り上げたアレンジのほうが良かったです。
歌のメロディーもサビに完全に負けてしまっているので、全く盛り上がりません。
音数を減らしたことにより、ピアノの凡庸さが目立っています。
そして最後のサビに向け、またブレイクを入れています。
最後のサビの歌のメロディーを上手に変化させていて、非常に良いです。
まったく同じサビを繰り返してはいけないのですが、この曲は上手にアレンジされています。
アウトロはほとんどないまま曲を終えています。
イントロもなかったので少しさびしく感じますね。
アウトロはしっかりと作ったほうがよかったと思います。
米津玄師『Lemon』の総評
Aメロ、Bメロ、サビのメロディーは美しくクオリティが高いです。
それだけに、アレンジの出来がやや悪いのが残念です。
ブレイクはサビ前だけにして、他は普通の編曲のほうがいいです。
Dメロの出来は悪かったですね。ここは力を入れるべきところです。
特に最近の音楽は、このDメロが弱い曲が多いです。
クオリティーの高い楽曲は緊張と緩和のバランスが絶妙です。
この曲は、緩和が多すぎてバランスを崩しています。
歌、作詞、作曲、編曲を一人でこなすマルチな才能を持っているのは
本当に素晴らしいことです。これからの活躍を期待しています。
米津玄師『Lemon』についてなのですが、13秒の合の手声の後などに入っている低音Fの音は、不要というより鳴らしてはダメな音の様に聴こえるのですが、いかがでしょう。大変疑問なのですが特に記述がなかったのでちょっと書き込ませていただきました。
sugi tadashiさん。こんにちは、管理人のRioです。
貴重なコメントありがとうございます。
さっそく、『Lemon』の楽譜を購入して調べ直しました。
シンセベースの音は譜面上では、C#音にバツ印が記載されていました。
なぜC#音なのかは分かりませんが、バツ印はピッチが不明瞭な時に使われる記号です。
ですからこのベースは、ベースとしてではなくSEのような役割を持たせていると考えられます。
とはいえ調性外のF音を鳴らすのには、やや違和感がありますね。
静かな空間を何かの音で埋めたい、という意図があったのでしょう。
ベースを入れるならグリッサンドの音とかを入れたほうが良かったと思いますね。
また何か気が付いた点があれば、気軽にコメントください。
お待ちしております。