「アレンジャーが教える編曲テクニック99」幅広く学べる良書

今回は『アレンジャーが教える編曲テクニック99
著者: マニュアル・オブ・エラーズをレビューしていきます。

編曲に関する理論書は乏しいですが、その中でもまずまず内容が充実している本書。
どんな特徴があり、どのような人に向いているのかを解説していきます。

『アレンジャーが教える編曲テクニック99』 

編曲というのは、メロディーに様々な楽器を加えて曲を作っていく大事な作業です。
多くの楽器の特徴を知ることは大切ですし、曲の構成やエフェクトの使い方を知る必要もあります。
しかし、重要な役割があるのに対して、編曲の学習法や理論を
解説している書籍は
あまり数が多くありません。
そのために苦労されている方は多いでしょう。

そんな状況の中で『アレンジャーが教える編曲テクニック99』は実際にプロとして活動されている方々が、
編曲のノウハウを解説している貴重な一冊といえます。

この本は4つの構成に分かれていますので、まずはそこから紹介しましょう。

・PART1 ジャンル別ガイダンス
・PART2 実践テクニック集
・PART3 曲の構築
・PART4 困ったときの奥の手

1つずつ中身を見ていきましょう。

PART1 ジャンル別ガイダンス


このパートでは9つのジャンルの楽曲の作り方について解説されています。

1. ポップス系ロック
2. バンド系ロック
3. シティ・ポップス
4. 壮大なバラード
5. R&B
6. エレクトロ
7. アコースティック・ミュージック
8. トランス
9. サンプリング・ミュージック

 

それぞれの音楽に関して、主に文章で作り方を解説しています。
楽譜を用いることが少なく、
抽象的な説明が多いです。
各ジャンルの音楽の全体像を知るという意味では、まずまず良い
内容ではないかと思います。

具体的なフレーズは次のパート2で解説しているので、ここでは詳細は語られていません。

PART2 実践テクニック集


ここからメロディーに対するハーモニーのつけ方や各楽器の特性に関する解説が
始まります。
気をつけるべき点はパート1で紹介された9つのジャンルの音楽を
り下げる
内容ではないということです。
ロックや生楽器を用いた音楽のフレーズが主であり、
エレクトロやトランスのフレーズに関しては
皆無に等しいです。
これは求める知識によって評価が大きく異なる要素です。

ストリングスやブラス、シンセサイザーと多岐にわたって解説されています。
広く浅く学ぶことが
可能ですので、この本で興味を持った楽器については
別の書籍で深く学ぶのがいいでしょう。
コーラスや歌のハーモニーに関しても解説されているのには好感を持ちました。

このあたりに関する知識やノウハウを解説している本は少ないですからね。

PART3 曲の構築


イントロからアウトロまで全て作ることは簡単なことではありません。
短い小節で曲を作ることが
出来ても、1曲を完成させることが出来ずに挫折した人は多いでしょう。
パート3では曲のキーやテンポの決め方から始まり、曲の構成についても解説されています。

イントロや間奏の作り方、マンネリ化を防ぐためのノウハウも解説されていて、
非常に良い
内容になっていると言えます。
アマチュアの方には分かりづらい、コンペ対策に関する記述もあるので、
プロを目指している
方にとっては優れた内容になっています。

一方で疑問点がいくつかあります。

イントロの作り方の項目で、「間奏をイントロとしても使う」という記述がありました。

そういう意味では、間奏をイントロとして使うのは、
一番自由が利き、チカラを問われる
パターンといえるかもしれません。

引用: アレンジャーが教える編曲テクニック99

私が書いた記事の中でも紹介しましたが、イントロと同じフレーズが最初のサビの後や
最後のサビの後(アウトロ)で使われることがあります。
しかし、イントロと間奏が同じ曲と
いうのは聞いたことがありません。
ヒット曲を中心に数多くの曲を研究してきましたが、
私は1曲も知りません。

間奏をイントロで使うことがなぜ自由が利くのか、なぜそこが力が問われるかもさっぱり理解できません。
この本の中で参考楽曲を紹介していることがあるのですが、間奏をイントロと
して使って、
上手くいっている曲があれば紹介すればいいのではないでしょうか。

「ワンコーラス中に何回か転調するのが珍しくない現代では」

この記述も間違っていますね。セカンダリードミナントなどの一時的な転調を含めても、
ワンコーラス中に複数回転調する曲はほとんどありません。多くても2回ですね。
このあたりの記述を読むと、「本当にちゃんと調べて書いたのか」疑問に思います。

PART4 困ったときの奥の手


パート4は「困ったときの奥の手」というタイトルになっていますが、
楽曲制作における
ちょっとしたテクニックも掲載されています。
ノイズやディレイを使ったフレーズなど記載されて
いますので、参考にするといいでしょう。

行き詰ったときの打開策というのは、自分ひとりの力で導くことは難しいです。
プロとして活動
されている経験豊富な方からの助言は、あなたの編曲活動を支えてくれるでしょう。

編曲テクニック99は楽譜がほとんどない


音源はまずまず充実しているといえますが、何故かその音源の楽譜がほとんどありません。
耳で聴いただけで理解しろ、ということでしょうか。これは理解に苦しみます。

ドラムとベースに関しては楽譜がほとんどありません。
これから編曲を学ばれる方にとっては
致命的な欠点といえます。
ピアノに関しても楽譜で表記すればいいものを、何故か図で
解説されています。
ギターに関しては楽譜と音源が充実していますが、その他は不十分です。

イラストなどが充実しているので、文章だらけの理論書のような堅苦しさはありません。
しかし、そのイラストが学習者の理解を深めるものとはいえません。
もっと楽譜を充実させたり、DAWのピアノロールの画面を使った
打ち込みのテクニックなどを
紹介したりすれば、優れた編曲の本になったでしょう。

電子書籍でも販売されています。
その場合は、音源をリットーミュージックのHPから
ダウンロードすることが出来ます。
HPから商品名を検索すれば、容易にたどり着けます。
購入前にDLして音を確認するのもいいでしょう。
自分のイメージどおりの専門書かどうかが
分かるかもしれませんからね。

月額読み放題サービスを利用することをオススメします。
限られた予算で多くの理論書を購入し、学ぶことが出来ますよ!

編曲テクニック99は生楽器で作曲する人向け

音楽のジャンルによって編曲に求められる知識やノウハウは異なります。
この本は、
前述のようにエレクトロやトランスのようなクラブ・ミュージックに関する記述は乏しいです。
そのあたりを期待して購入を検討している方は気をつけるべきです。

音楽理論の基礎やコードに関する記述を削り、編曲に絞った点は高く評価します。
コード進行の本や理論の本はたくさんありますが、編曲の専門の本は少ないですからね。
これから編曲を学ぶ人向けの内容ではありません。
ある程度編曲の経験があり、編曲の力を
広く底上げしたいという人に向いてます。

編曲テクニック99の総評

編曲を1冊の本で学ぶことは難しいです。
編曲は非常に多くの知識と経験が必要ですので、
複数の書籍を読み、
理解を深めていくことが重要です。
本書はジャンルに偏りがややあり、楽譜が
乏しいので、
そのあたりを次の学習で補っていく必要があるでしょう。

「次の本へ進むためのきっかけになる本」と考えれば、良い内容になっていると言えます。

あわせて読みたい
▶今まで投稿した編曲に関する記事はこちらから読めます。

 

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